帝国データバンクが2026年9月4日に発表した「『保育園』の倒産・休廃業解散動向(2026年1-8月)」によると、2026年1月から8月までに発生した保育園運営事業者の休廃業・解散は30件となり、前年同期の20件から1.5倍に増加しました。
さらに、負債1,000万円以上の法的整理による倒産が6件発生し、合わせて36件の保育園が事業を終了。同期間として過去最多となっています。
帝国データバンクは、その背景として「子どもの減少による園児獲得競争」「保育士不足」「運営コストの上昇」という三重苦を挙げています。
数字だけを見ると「少子化だから保育園が余ってきた」という話に見えるかもしれません。
しかし、人材採用や保育士の人材紹介に関わっている立場から見ると、私はこのニュースをもう少し深刻に受け止めています。
保育園が減っている一方で、保育士は足りない。
一見すると矛盾しているようですが、これこそが現在の保育業界が抱える問題の難しさではないでしょうか。
保育園の倒産・廃業は「少子化」だけでは説明できない
今回の帝国データバンクの調査で特に気になるのが、2026年に倒産・廃業した保育園のうち、首都圏・京阪神・中京以外の「地方」が7割超を占めている点です。
2016年には47.1%だったため、10年間で地方の割合が大きく上昇したことになります。
地方では人口そのものが減少し、当然ながら子どもの数も減っています。その一方で、待機児童対策などを背景として保育施設の整備が進み、一部地域では需要に対して施設数が多くなっています。
つまり、以前は「保育園が足りない」ということが社会問題になっていたのに、今度は地域によって「園児をどう集めるのか」という競争が始まっているわけです。
さらに、認定こども園の増加によって保護者側の選択肢も広がっています。
帝国データバンクも、特に3歳児以降では教育的なカリキュラムを求めて幼稚園や認定こども園を選択する家庭が増え、従来型の保育園では3~5歳児クラスの定員割れが収益を圧迫する可能性を指摘しています。
ここだけを見れば、確かに「少子化による供給過剰」という問題です。
しかし、もう一つ非常に大きいのが保育士を採用できない問題です。
園児を受け入れたいのに、保育士が採用できない
保育事業は、単純に「お客様である園児が来れば売上が増える」という商売ではありません。
園児を受け入れるためには必要な人数の保育士を配置しなければならず、採用できなければ定員いっぱいまで園児を受け入れることができません。
帝国データバンクの調査でも、保育士の退職や採用難によって配置基準を満たせず、自主的に定員枠を縮小したり、預かりを制限したりすることで減収につながっているケースがあるとしています。
私は保育士を扱う人材紹介会社の求人サイトや求職者獲得をサポートする機会が多いのですが、現場を見ていると保育士の求職者を獲得すること自体が非常に難しくなっていると感じます。
これは重要なポイントです。
保育園側からすると「保育士が足りない」。
人材紹介会社側からすると「紹介できる保育士を集めることが難しい」。
つまり、どこかに大量の保育士が余っていて、人材紹介会社が囲い込んでいるという単純な構図ではありません。
保育士を求める事業者が多い一方、転職を希望する保育士の獲得競争も非常に激しくなっています。
「人材紹介会社の紹介料が高いから悪い」という話には違和感がある
ここからは少し辛口に書きます。
医療・介護・保育など、人材不足が深刻な業界のニュースを見ていると、時々、人材紹介会社の紹介手数料の高さが問題として取り上げられます。
もちろん、紹介会社にも問題がないとは言いません。
高い手数料を取りながら十分なマッチングを行わない会社、入社後の定着を考えずに転職を繰り返させる会社、求人企業と求職者の双方に十分な説明をしない会社が存在するのであれば、それは改善されるべきです。
しかし、だからといって「人材紹介会社の手数料が高いことが人手不足の原因だ」という方向に話を持っていくのは、あまりにも単純ではないでしょうか。
人材紹介会社は、どこからともなく無料で求職者を連れてきているわけではありません。
保育士不足になればなるほど、紹介会社同士でも求職者獲得競争が起こります。その結果、Web広告、求人媒体、SEO、SNS、スカウトなどに相応の費用をかけなければ求職者を集めにくくなります。
求人企業から見れば「紹介手数料は高い」。
これはよく分かります。
しかし、人材紹介会社側から見れば、その一人を紹介できる状態にするまでに、広告費やシステム費、人件費、営業費用、キャリアアドバイザーの費用などが発生しています。
特に人材不足が深刻な職種になればなるほど、求職者一人を獲得するためのマーケティングコストは上昇しやすくなります。
「紹介会社は30%も手数料を取っているから儲かっているだろう」と外から見るのは簡単です。
しかし、紹介会社を実際に経営すると分かりますが、売上だけを見て利益を判断できるような単純なビジネスではありません。
求職者を集められなければ商品が存在しないのと同じです。
その求職者を獲得するために広告費が高騰しているのであれば、紹介料だけを規制したところで問題の根本的な解決にはなりません。
医療・介護でも同じことが起きている
これは保育業界だけの問題ではありません。
医療や介護でも、看護師、薬剤師、介護職などの人材不足が続けば、同じ構造になります。
医療機関や介護施設は「人が採れない」と困る。
そこで人材紹介会社を利用する。
しかし紹介会社も求職者を簡単には集められないため、広告費をかけて集客する。
紹介料が高くなる。
すると今度は「人材紹介会社が高額な紹介料を取っていることが問題だ」という議論になります。
私は、この議論にはどうしても違和感があります。
もちろん紹介料の適正化や透明化は必要です。
しかし、本当に問題なのはもっと上流にある「働く人そのものが減っている」という日本の人口構造ではないでしょうか。
働く人が減るのに、今までと同じ仕組みを維持できるのか
少子化という言葉を聞くと、「子どもの数が減る」という部分に目が行きます。
しかし、本当に厳しいのは、その後です。
子どもの数が減れば、十数年後、二十数年後には当然ながら働く人も減ります。
働く人が減っているにもかかわらず、保育、医療、介護、物流、建設、飲食、宿泊など、社会を維持するために必要なサービスはなくなりません。
そうなれば、限られた労働力を企業や施設同士で取り合うことになります。
これは人材紹介会社の紹介料を少し下げれば解決するような問題ではありません。
保育園に対して「もっと採用を頑張りましょう」と言うだけでも解決しません。
人材紹介会社に対して「もっと安く紹介しろ」と言うだけでも解決しません。
働く人が減っているのですから、社会全体で「今までと同じ人数を使って、今までと同じサービスを提供する」こと自体が可能なのかを考える時期に来ています。
採用できない会社が淘汰される時代は、すでに始まっている
一方で、すべてを人口減少のせいにするのも違います。
同じ地域、同じ職種、似たような給与でも、人が採れる会社と採れない会社があります。
求人広告を出して終わり。
Indeedに掲載して終わり。
応募がなければ「最近は人がいない」。
紹介会社を使って採用できたら「紹介料が高い」。
これでは、さすがに採用戦略とは言えません。
これからの採用では、給与や休日などの条件だけでなく、職場環境、仕事内容、教育体制、キャリア、働いている人、経営者の考え方などを、求職者にきちんと伝える必要があります。
自社採用サイト、求人検索エンジン、求人広告、人材紹介、スカウト、SNS、社員紹介など、複数の採用チャネルを持つことも必要でしょう。
そして何より重要なのが、採用した人が辞めない組織をつくることです。
採用単価を5万円下げることばかり考えているのに、採用した人が半年で辞めてしまう。
それでは本末転倒です。
「選ばれる保育園」と「選ばれる会社」は同じになっていく
帝国データバンクは今回、今後は保育サービス業界で「選ばれる園」と「選ばれない園」の二極化がさらに進む可能性を指摘しています。
私はこの「選ばれる」という言葉が非常に重要だと思っています。
これから保育園は二つの相手から選ばれなければなりません。
一つは、保護者。
もう一つは、働く保育士です。
園児募集だけ一生懸命やっても、保育士が採れなければ園児を受け入れられません。
逆に保育士を採用しても、地域の子どもが減り、保護者から選ばれなければ経営は成り立ちません。
つまり、これからの保育園経営では「利用者マーケティング」と「採用マーケティング」の両方が必要になります。
ここは一般企業の経営とほとんど変わらなくなってきたと私は思います。
人材紹介会社も「人手不足だから儲かる」と考えていたら危ない
一方、人材紹介会社側も安心してはいられません。
人手不足だから人材紹介会社にとって追い風だ、という単純な話でもありません。
求人企業が増えても、紹介する求職者を獲得できなければ売上にはなりません。
むしろ人材不足が進めば、求職者獲得競争が激しくなり、広告費が上昇し、売上は増えても利益が残らない会社が増える可能性があります。
今後、人材紹介会社の差は「求人企業を何社持っているか」以上に、自社で求職者を獲得できる仕組みを持っているかで決まってくるのではないでしょうか。
求人媒体から応募を買い続けるだけなのか。
検索から求職者を獲得できるのか。
自社の求人サイトやオウンドメディアを育てているのか。
スカウトやSNSを組み合わせているのか。
一度登録した求職者との関係を維持できているのか。
ここに向き合わず、「紹介料30%だから儲かる」と考えている会社は、これからかなり厳しくなると思います。
人材紹介会社を悪者にしても、保育士は一人も増えない
今回のニュースを見て、私が最も言いたいのはここです。
人材紹介会社の紹介料を批判することは簡単です。
しかし、人材紹介会社を悪者にしても、保育士が一人増えるわけではありません。
紹介料の問題を議論すること自体は必要です。
悪質な事業者を排除することも必要です。
しかし、それと「保育士不足の原因」は分けて考える必要があります。
人材紹介会社も、高額になったWeb広告費や求人媒体費を負担しながら求職者を集めています。
採用する側も苦しい。
紹介する側も求職者獲得が難しい。
そして現場で働く保育士にも負担がかかっている。
この状態で、どこか一者を悪者に仕立てれば問題が解決するという考え方には無理があります。
必要なのは「誰が悪いか」ではなく、仕組みそのものの見直し
日本の人口が増え続けているのであれば、今までの仕組みを維持することもできたでしょう。
しかし、人口も労働力人口も減っていく社会では、保育業界だけではなく、医療・介護を含めた人材配置の考え方そのものを変えていく必要があります。
ICTやAIによって減らせる事務作業は減らす。
資格者でなくてもできる仕事は役割分担を見直す。
採用だけでなく定着に投資する。
待遇改善を行う。
地域によっては施設の統合や再編も必要になる。
そして人材紹介会社についても、単なる「人の仲介」ではなく、求人企業の採用力そのものを高める支援が求められていくでしょう。
少し厳しい言い方をすれば、人口が減っているのに「人が採れません。紹介会社は高いです。国が何とかしてください」と言い続けるだけでは、何も変わりません。
人材紹介会社側も同じです。
「人手不足だから求人企業はいくらでもある」と考えているだけでは、そのうち求職者を獲得できなくなります。
保育園にも、人材会社にも、自分たち自身が選ばれる理由をつくる経営が必要になっています。
まとめ|保育園36件消滅という数字の先にある問題を見るべき
帝国データバンクによれば、2026年1~8月だけで倒産・休廃業・解散によって36件の保育園が消滅しました。
少子化、地方人口の減少、園児獲得競争、保育士不足、物価や人件費の上昇。
これらが同時に進んでいるため、単純な解決策はありません。
そして私は、今後この問題は保育業界だけではなく、医療・介護をはじめ、人手に依存するあらゆる業界でさらに表面化すると考えています。
人材不足について議論するとき、「紹介手数料が高い」「求人広告費が高い」といった目の前のコストだけに話を終始させるべきではありません。
本当の問題は、働く人そのものが減っていく社会で、これまでと同じサービス提供体制を維持しようとしていることにあります。
人材紹介会社を悪者にしても、人は増えません。
保育園だけに採用努力を求めても限界があります。
だからこそ、採用方法、働き方、待遇、業務分担、生産性、施設運営、そして人材サービスのあり方まで含めて見直す必要があります。
帝国データバンクが今回示した「選ばれる園」と「選ばれない園」という二極化は、保育園だけの話ではありません。
これからは、企業も、人材紹介会社も、派遣会社も、求職者から「選ばれる側」にならなければ生き残れない。
今回の保育園の倒産・廃業増加は、その変化がすでに始まっていることを示すニュースではないでしょうか。
出典
株式会社帝国データバンク
「『保育園』の倒産・休廃業解散動向(2026年1-8月)」
2026年9月4日発表
帝国データバンク公式レポート















