「モームリ」元社長ら有罪判決、退職代行は転換点へ|企業は民間の退職代行にどこまで対応する必要があるのか

「モームリ」元社長ら有罪判決、退職代行は転換点へ|企業は民間の退職代行にどこまで対応する必要があるのか
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退職代行サービス「モームリ」を運営する会社の元社長らに有罪判決が言い渡されたことで、急成長してきた退職代行ビジネスが大きな転換点を迎えている。

J-CASTニュースが2026年9月3日に報じたところによると、東京地裁は8月28日、「退職代行モームリ」を運営するアルバトロスの元社長に懲役2年、執行猶予3年、妻で元従業員に懲役1年6か月、執行猶予3年を言い渡した。法人にも罰金200万円が科された。

問題となったのは、退職代行サービスそのものではない。退職をめぐって法的な交渉が必要となった利用者を弁護士に有償で紹介した行為などが、弁護士法違反に問われたものだ。

したがって、「退職代行は違法である」と単純に捉えるのは正しくない。一方で今回の事件によって、一般企業が運営する退職代行サービスの「できること」と「できないこと」が改めて浮き彫りになったともいえる。

今回のNEWSで注目したいポイント

  • 退職代行そのものが違法という話ではない
  • 一般の退職代行会社には、会社との法的な交渉ができないという大きな制約がある
  • 退職代行からの連絡に「取り合わない」と考える企業も増えている
  • 弁護士が2万円前後で退職代行市場に参入し始めている
  • 今後は民間退職代行サービスの存在価値そのものが問われる可能性がある

退職代行は急成長したが、2026年に空気が変わった

退職代行サービスが広く知られるようになったのは2010年代後半だが、その知名度を一気に高めた会社の一つがモームリだった。

SNSやテレビ、WEBメディアへの積極的な露出もあり、特に新卒社員が入社する4月になると「入社数日で退職代行を利用した」といったニュースが毎年のように報じられた。

市場拡大を受けて新規参入も相次いだ。

東京商工リサーチによると、2026年5月時点で「退職代行」を営業項目に掲げる企業は、弁護士法人を除き56社。そのうち32社が2025年設立だったという。

わずか1年でこれだけの会社が参入してきたことを考えても、「儲かりそうな市場」として一気に注目されたことが分かる。

しかし、こうした急成長ビジネスではよくあることだが、参入企業が増えれば増えるほど、価格競争が始まり、さらに法律上の境界線ぎりぎりのサービスも生まれやすくなる。

今回のモームリをめぐる事件は、まさに退職代行というビジネスモデルが抱えていた問題を表面化させた出来事だったのではないだろうか。

一般企業の退職代行は「伝える」ことはできても「交渉」はできない

今回のニュースで最も重要なのはここだと思う。

一般の退職代行会社ができるのは、基本的には本人の退職意思を会社側へ伝えるところまでだ。

ところが実際の退職では、「辞めます」と伝えるだけで終わらないケースが少なくない。

例えば、未払い残業代がある、有給休暇を消化したい、会社から借りているものをどう返却するのか、離職票はどうするのか、社会保険の資格喪失手続きはどうなるのか、退職日をいつにするのか、会社から損害賠償を求められた――など、さまざまな問題が発生する。

特に会社と労働者の関係が悪くなっているケースほど、単純な「退職します」という連絡だけでは終わらない。

東京弁護士会も、弁護士ではない者が法律的な問題について本人を代理して会社側と話し合うことは、非弁行為となる可能性があると説明している。

つまり皮肉なことに、退職代行を本当に必要とするような難しい案件になればなるほど、一般の退職代行会社ができる仕事は少なくなるのである。

【私の見解】正直、一般の退職代行会社から電話が来たら、企業はどこまで相手をする必要があるのか

私は以前から、一般企業が運営している退職代行サービスについて少し違和感を持っています。

もちろん、精神的に追い詰められていて会社へ電話することすらできない人や、強い引き留めを受けて辞めると言い出せない人がいることは理解しています。退職代行というサービスが生まれた背景には、それなりの社会的な理由があります。

ただ、会社側の立場から考えると、資格も法的な代理権も持っていない一般企業から突然「○○さんが退職します。今後本人へ連絡しないでください」と電話がかかってきたとき、果たしてその会社と延々と話をする必要があるのだろうか、と私は思います。

極端に言えば、本人から預かった手紙を持ってきた第三者と、どこまで違うのでしょうか。

退職するという本人の意思を伝達することと、退職に関する問題について本人の代理人として交渉することはまったく別の話です。

未払い賃金、有給休暇、退職日、会社からの貸与品、社会保険、離職票、損害賠償などの話になれば、そこには法律上の問題が絡んできます。

だから私は、企業側も退職代行業者から連絡が来たからといって、何でもその業者を窓口として対応する必要はないと思っています。

「退職の意思は承知しました。しかし、あなた方に代理権があるのか分からないため、交渉については対応しません。必要事項については本人、または正式な代理権を持つ専門家を通してください」

企業としては、このくらい冷静に線を引いてもよいのではないでしょうか。

実際、東京商工リサーチの調査では、弁護士や労働組合以外の退職代行から連絡を受けた場合、「非弁行為が含まれる可能性があるため取り合わない」と回答した企業が30.4%に上っている。

私は、この30.4%という数字は今後さらに増えても不思議ではないと思う。

ただし、ここには重要な注意点がある。

「退職代行会社との交渉に応じない」ことと、「社員本人の退職意思そのものを無視する」ことは別である。

期間の定めのない雇用契約については、会社が「退職を認めない」と言えばいつまでも辞められないというものではない。したがって企業側も、感情的になって退職そのものを阻止しようとするのではなく、本人の意思確認と必要な退職手続きを冷静に進める必要がある。

退職代行に腹を立てて本人に執拗に電話をするような対応も、私は得策ではないと思う。

問題なのは「辞めさせる・辞めさせない」ではなく、誰がどの権限で何を要求しているのかを整理することだ。

弁護士が1万9800円で参入――これは民間業者にとってかなり厳しい

そして、今回のニュースでもう一つ興味深いのが、弁護士事務所の参入である。

例えばアディーレ法律事務所では、弁護士が会社へ退職意思を伝える「ライトプラン」を税込1万9800円で提供している。

一方、モームリの正社員・契約社員・派遣社員向け料金は2万2000円。

単純比較すれば、弁護士のほうが安い。

もちろん1万9800円のライトプランですべての交渉を行ってくれるわけではなく、有休取得や退職日、未払い賃金などについて本格的な交渉を依頼する場合には料金体系が変わる。

それでも消費者心理を考えれば、

「2万円払うのであれば、最初から弁護士に頼んだほうがいいのでは?」

となるのは当然だろう。

【私の見解】弁護士の1万9800円には、商売としての“うまさ”と少しいやらしさも感じる

ここは少し辛口に書きます。

私は、弁護士が退職意思を伝えるだけのサービスに1万9800円で参入してくることには、ビジネスとして非常にうまいと感じる一方で、少しいやらしさも感じます。

一般的に弁護士の時間単価を考えれば、単純な退職通知だけを1万9800円で大量に引き受けることが、ものすごく利益率の高い仕事とは考えにくい。

では、なぜこれだけ安い入口商品を用意するのか。

退職を考えている人の中には、未払い残業代、給与、退職金、ハラスメント、会社とのトラブルなど、次の法律相談につながる可能性を持っている人が一定数いる。

つまり退職代行は、弁護士事務所にとって「労働問題を抱えている可能性の高い人と最初に接点を持てるサービス」でもある。

これはマーケティングでいう、いわゆるフロントエンド商品に近い考え方にも見える。

もちろん、特定の法律事務所が「後から残業代請求や訴訟で儲けるために1万9800円にしている」と断定するつもりはありません。しかしビジネス構造として考えれば、退職代行を入口として、未払い残業代請求や労働問題など、より専門性の高い法律サービスにつながる可能性があることは容易に想像できます。

その意味では、1万9800円という料金設定は非常に戦略的です。

そして一般の退職代行会社からすれば、これは相当に厳しい競争相手でしょう。

退職代行会社が弁護士と価格競争をしたら勝てない

退職代行市場をビジネスとして見ると、今後はかなり面白い競争になると思う。

一般企業の退職代行は価格を下げることはできても、法律によって「できる仕事」の範囲に制約がある。

一方、弁護士は法律上認められた範囲で交渉まで行える。

この状態で料金まで同程度、あるいは弁護士側のほうが安くなれば、消費者がどちらを選ぶかは分かりやすい。

退職の意思を伝えるだけなら、家族や本人から内容証明郵便などで通知する方法もある。

難しい問題があるなら弁護士へ相談する。

そうなると、その中間にいる一般の退職代行会社は、

「では、あなたたちは何をしてくれる会社なのか?」

という厳しい問いを突き付けられることになる。

転職支援、住居探し、キャリア相談、教育サービスなどをセットにする会社が出てくるのも、その危機感の表れだろう。

ただし、企業側も「退職代行を使う社員が悪い」で終わらせてはいけない

ここで企業側が勘違いしてはいけないこともある。

退職代行会社のビジネスモデルに問題があることと、社員が退職代行を使う理由は別問題だ。

本来なら上司に「辞めます」と一言伝えれば済む話なのに、わざわざ2万円前後のお金を払って第三者に依頼する。

なぜそこまでしなければならなかったのか。

上司が怖いのか。

何度退職を申し出ても引き留められるのか。

職場に相談できる人がいないのか。

退職すると言った途端に態度が変わる会社なのか。

それとも単純に、本人が面倒なコミュニケーションを避けているだけなのか。

理由はケースによって違う。

しかし採用に多額のお金をかけて人を集めている会社ほど、退職代行が利用されたときには、代行会社への怒りより先に「なぜ本人は自分たちに直接言えなかったのか」を一度検証したほうがいい。

採用単価が30万円、50万円、100万円とかかる時代に、入社した社員が数か月で退職代行を使って辞めてしまえば、会社にとっての損失は2万円どころの話ではない。

採用広告、人材紹介手数料、教育コスト、現場の負担を考えれば、早期離職のほうがはるかに大きな経営問題である。

「退職代行がなくなる」のではなく、民間退職代行の淘汰が始まるのではないか

私は、退職代行というニーズそのものがなくなるとは思わない。

会社と直接話したくない、強い引き留めを受けたくない、精神的に会社と接触したくないという人はこれからも一定数いる。

ただし、今回の事件をきっかけに、利用者側も企業側も「その退職代行会社は何者なのか」を以前より慎重に見るようになるだろう。

そして弁護士が2万円前後の価格帯まで下りてきたことによって、単純に「会社へ電話一本入れます」というサービスだけでは、民間退職代行会社が生き残るのは難しくなっていくのではないか。

個人的には、2025年だけで32社も設立されたという状況のほうがむしろ異常だったと思う。

参入障壁が低く、話題になり、儲かりそうに見える市場には企業が一気に集まる。

しかし市場が成熟すると、価格競争だけではなく、法令順守、信用力、専門性、資本力、ブランド力が問われる。

これは求人メディア、人材紹介、派遣、WEBマーケティングなど、さまざまな業界で何度も繰り返されてきた構図でもある。

まとめ|退職代行問題で本当に見るべきなのは「誰が退職を伝えるか」だけではない

モームリ元社長らへの有罪判決によって、退職代行業界は大きな転換点を迎えた。

ただ、このニュースを「モームリが問題を起こした」「退職代行はオワコンだ」というだけで終わらせるのは少しもったいない。

企業側から見れば、一般の退職代行会社がどこまで代理できるのかを理解し、必要以上に相手の言うことを聞かないことも重要になる。

一方で、社員本人の退職意思まで無視してよいわけではない。退職手続きと代理業者への対応は切り分けて考える必要がある。

そして弁護士側が1万9800円という価格帯で参入してきたことによって、一般の退職代行会社には、これまで以上に「自分たちを使う意味」が求められる。

私自身は、法的トラブルになる可能性がある退職について、資格のない一般企業に2万円以上払うのであれば、最初から専門家へ相談したほうが合理的ではないかと思う。

さらに会社側も、「最近の若者は退職代行なんか使って」と片付けるだけでは何も変わらない。

なぜ社員が会社と直接話せなくなったのか。

採用時に伝えていたことと、入社後の現実にズレはなかったのか。

管理職とのコミュニケーションに問題はなかったのか。

退職代行というサービスがこれだけ広がった背景には、サービスを提供する会社だけではなく、それを必要とする職場が存在するという現実もある。

退職代行会社が淘汰されるのか、弁護士中心の市場になっていくのか、それとも新しいサービス形態へ変化していくのか。

いずれにしても、2025年までの「退職代行ブーム」と同じ勢いで誰でも参入できる時代は、そろそろ終わりに近づいているのではないだろうか。


参考:J-CASTニュース「『モームリ』元社長ら有罪判決で退職代行がオワコン化か」、東京商工リサーチ「『モームリ』前社長らに有罪判決、退職代行サービスは転機に」、東京弁護士会「退職代行サービスと弁護士法違反」、アディーレ法律事務所「退職代行サービス」


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監修者

石井英明

株式会社カスタマ 代表取締役社長

2004年創業。いち早く自社制作の求人サイト運用を始め、医療・介護特化の人材紹介事業を成長させてM&A(事業売却)を成功させる。20年以上の採用実務とWebマーケティングの経験を活かし、現在は求人サイト(自社オウンドメディア)で、企業が直接、求職者を獲得できるよう伴走支援している。現在は、人材紹介・派遣会社など“採用のプロ”の求人サイト制作や運用を支援する「プロを支えるプロ」として活躍。

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